【解説記事】労働保険について人事のプロが解説。

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わかりそうでわからない労働保険。今回は人事のプロの方に労働保険について解説していただきました。

この記事を書いた人

安藤善隆さん:従業員数500人ほどの設計コンサルタント会社(東証スタンダード市場上場)において、主に人事・法務に関する業務を約20年間担当。人事としては、労働保険・社会保険手続、給与計算・年末調整、労務管理、入退社時の手続、人事情報一元管理、企業年金の資産運用など。法務としては、株主総会の運営及びIR、契約書の作成及び内容審査、対外的な契約交渉などに従事。加えて、現在は、総務責任者として、人的資本経営の推進、全社の人事・法務に関するマネジメントに力を注ぐ

会社に勤めている方の多くは労働保険に加入しています。しかし、実際に保険証が手元にあるわけでもなく、労働保険に関する説明を入社時に受けたという方も少ないため、労働保険に加入している実感があまりないのではないかと思います。

そこで、今回は、労働保険の大まかな内容についてご紹介します。

目次

労働保険とは(種類や保険の概要について)

労働保険とは、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」とします)と雇用保険の2種類の総称のことです。

それぞれ、補償内容は多岐にわたりますが、主な内容についてご紹介します。

まずは、労災保険についてです。

労災保険では、仕事中のけが、仕事が原因の病気、治療した後も障害が残った場合や死亡した場合について、治療費や一時金などが支給される保険です。

仕事中や仕事が原因となっている点で、健康保険が適用される場面とは異なっています。

なお、仕事中の場合は「業務災害」として補償され、通勤や帰宅途中の場合は「通勤災害」として「業務災害」と同様に補償されます。

次に、雇用保険についてです。

雇用保険では、失業した際に受給できる「基本手当」、就業中であっても教育訓練を受けた際に支給される「教育訓練給付」、育児や介護のために休業した際に支給される「育児休業給付金・介護休業給付金」などが給付されます。ただし、支給されるための条件が細かく設けられていますので注意が必要です。

労働保険の加入時期と条件とは

はてなマークの画像

会社で働く人は、いつ労働保険に加入しているのでしょうか。

保険証を渡されることもないため実感がわかないかと思います。

労災保険と雇用保険ともに、従業員が何か手続書類を提出することなく、入社時から加入しています。

そのため、入社日当日に通勤途中でケガをした場合も労災保険の補償対象となっています。

それでは、加入にあたっての条件はあるのでしょうか。

労災保険については、一般企業に勤務する場合は、条件なく加入することになります。もちろん、アルバイトやパートの方も全員対象です。年齢条件もありません。

一方、雇用保険については、一般企業に勤務する場合でも、週20時間以上勤務かつ入社から31日以上の継続勤務が見込まれることなどの条件があります。年齢条件はありません。

労働保険の保険料と被保険者証とは

支払い用紙、保険料を支払うイメージ

労働保険の保険料は誰が支払っているのでしょうか。

労災保険については、保険料全額を会社が負担しています。従業員が負担することはありません。

一方、雇用保険については、雇用保険料を会社と従業員で分担して負担し、労災保険とあわせて労働保険料として企業が納付しています。

お勤め先の会社から初めて受け取る給与明細にも、雇用保険料が控除されていると思います。

この保険料が、従業員負担分です。

お勤め先の会社の業種によって保険料率は変わります。労働保険の年度が当年4月から翌年3月までを1年度としている関係で、一般的には、4月にその年度の保険料率が適用開始となります。

例えば、農林水産業や建設業を除く一般企業にお勤めの場合、2023年度に従業員が負担する雇用保険料率は0.6%です。通勤手当を含む総支給額に0.6%を乗じると雇用保険料が算出できます。給与明細を一度ご確認いただければと思います。

次に、保険証についてです。

労災保険には保険証がありません。労災保険を使う場合は、労災に関する申請書に会社が労災保険に加入している従業員である旨を記載し保険の加入を証明します。

一方、雇用保険は、会社で雇用保険加入手続をとると雇用保険被保険者証が発行されます。ただし、就業中はほとんど使うことがないため、会社側でずっと保管していて、退職時などに初めて従業員に渡されるというケースも多いです。

労働保険適用の具体例

それでは、労働保険が適用される事例について、いくつかご紹介します。

まずは、労災保険についてです。

ケース1

仕事中に会社の階段で足を踏み外し、ねん挫。治療を受けたい場合、どうしたらよいでしょうか。

まずは、お勤め先の労災担当者にご連絡ください。診察を受ける病院が、労災指定病院か労災指定外病院かで手続きが異なります。労災指定病院の場合、お勤め先が発行する申請書(「療養補償給付たる療養の給付請求書」といいます。)を病院窓口で提出すれば、治療費を支払うことなく治療を受けることができます。なお、外出先でのケガの場合など、申請書の提出ができない場合は、後日に提出することが大丈夫なケースも多いです。病院窓口でご相談ください。

一方、労災指定外病院の場合は、治療費をいったん全額で支払、後日労働基準監督署に申請書(「療養補償給付たる療養の費用請求書」といます。)を提出すれば、後日、治療費が全額返金されます。

次に、雇用保険についてです。

ケース2

退職することになり、退職後に雇用保険の基本手当を受給したい場合、どうしたらよいのでしょうか。

お勤め先の会社から退職手続きの案内がある際、「雇用保険被保険者離職証明書」の作成と内容確認について説明があると思います。過去の給与支給額や退職理由などが記載されていますので、内容を確認してください。退職日以後に、会社側が雇用保険資格喪失手続きを完了すると、「雇用保険被保険者離職証明書」をもとに「離職票」が発行されますので、そちらを持参してハローワークへ行きましょう。

なお、「雇用保険被保険者離職証明書」の作成は、従業員側からの申出があった場合に作成することになっています。「雇用保険被保険者離職証明書」の作成がなくても、雇用保険資格喪失手続きは可能です。その場合「離職票」が発行されません。

基本手当を受給する予定の場合は、退職手続きの際、お勤め先の担当者に「雇用保険被保険者離職証明書」の作成を依頼するようにしましょう。

ケース3

妻が出産し、育児の手伝いをするため育児休業を取る予定です。男性社員でも育児休業給付金を受給できるのでしょうか。

男性社員でも、育児休業をとり、お勤め先の給与が減額もしくは無給となった場合、育児休業給付金の支給申請が可能です。

ご自身が職安で手続きを行うことも可能ですが、お勤め先のご担当者に育児休業給付金支給申請について申し出て、お勤め先経由で申請してもらう方が安心です。

育児休業給付金が支給されるための条件は細かい定めがありますので、事前に相談しておく方がよいでしょう。

資格喪失(退職)時の手続き

労災保険については、従業員ごとの退職手続きはありません。そのため、従業員への手続き案内もありません。

雇用保険については、退職時に雇用保険資格喪失手続きの案内があります。

ただし、上記ケース2で記載したように、従業員に説明なしに、会社側で雇用保険資格喪失手続きを完了させることも可能です。退職後に、基本手当受給を考えている場合は、お勤め先から「雇用保険被保険者離職証明書」の作成について案内がなかった場合、必ず作成依頼をするようにしましょう。退職後に必要となり、あらためて作成依頼をすることも可能ですが、その分ハローワークでの手続きも遅れ、基本手当受給まで時間を要することなりますのでご注意ください。

まとめ

労働保険は、従業員の皆さんにとっては、あまり身近に感じないかもしれません。 しかし、その内容は、在職中も退職後の生活にも影響がある、とても大切な保険です。法律で規定されている内容はとても細かく分かりづらいところも多いですが、まずは概要を知っておくことから始めましょう

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