「ブラック企業」という言葉は、今や当たり前のように使われる言葉となりました。
ブラック企業は労働者の健康や生活の質を著しく損ねるだけでなく、経済的な不平等や労働市場の歪みを引き起こす可能性があります。
この記事は、ブラック企業について簡単に解説していきます。
ブラック企業とは
ブラック企業はネット由来の言葉であり、言葉自体には法的な定義はありません。
厚生労働省のサイト内では、ブラック企業という言葉は使用せず、“「働き方の見直し」に向けた企業”や“若者の「使い捨て」が疑われる企業”といった言葉で表現されています。
一般的な特徴として、下記が挙げられます。
- 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
- 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い
- このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う
「世間一般的」なブラック企業の定義とは
法的な定義は無いものの、上記で紹介した特徴に当てはまる企業は、ブラック企業である可能性が高いと言えます。
世間一般的にも「長時間労働」「賃金の未払い」「パワハラ」などを行なっていることが判明すれば、ブラック企業と呼ばれることでしょう。
ここでは上記で紹介した特徴を、さらに詳しく解説していきます。
極端な長時間労働
勤務時間の上限は、法律で定められています。
原則は労働基準法第32条で1週間40時間、1日8時間と決まっています。また、一定の条件を満たした場合には1ヶ月を平均して1週40時間にする制度(1ヶ月単位の変形労働制)や1年の労働時間を平均して1週40時間にする制度(1年単位の変形労働制)があり、これを超える労働を法定時間外労働と言い、いわゆる残業ということになります。
なお、法定時間外労働については、時間外労働に関する限度基準という告示があります。
1日や週の労働時間だけでなく、残業に関しても労働時間は定められています。
長時間労働の問題として挙げられるのは、「残業時間」です。
企業は時間外労働協定(36協定)の届出をしている場合、従業員に残業をさせることが可能です。
ですが、36協定にも原則月45時間・年間360時間の上限が設けられています。
この上限を超えた残業をさせることは違法行為にあたります。
残業(時間外・休日労働)が月100時間以上または、2〜6ヶ月の平均時間が月80時間を超えると、健康障害のリスクが高まると言われています。
いわゆる、過労死ラインと呼ばれるものです。
コンプライアンス意識の低さ
企業のコンプライアンスの低さとは、企業が法律や規制、倫理的な規範、契約条件などに対する遵守度が不十分である状態を指します。
以下に、いくつか具体例を挙げます。
法的違反
法律や規制への違反は、最も重大なコンプライアンス違反の一つです。
税務法違反、環境法違反、労働基準法違反、競争法違反、金融規制違反などが含まれます。
例えば、賃金の未払いは労働基準法に違反します。
不正行為
汚職、賄賂、詐欺、腐敗行為、不正会計など、企業内部で行われる不正行為もコンプライアンス違反と見なされます。
条件を満たしていないにも関わらず、補助金や助成金を受給することも不正行為となります。
倫理的違反
倫理的な規範に反する行為や、ステークホルダーに対する不誠実な行動もコンプライアンス違反に含まれます。
ステークホルダーとは、企業のあらゆる利害関係(※)を有するものを指します。
※経営者、株主、従業員、顧客、金融機関、行政、各種団体など
情報の漏洩
個人情報や機密情報の漏洩は、プライバシー法やデータ保護法に違反することになります。
近年はリモートワークやコワーキングスペースで仕事をする方も増えているため、顧客や企業の情報が入った資料などを持ち歩く際は十分な注意が必要です。
職場の安全性の無視
労働者の健康と安全に配慮しないことは、労働安全衛生法に違反する可能性があります。
食品を扱う企業は衛生管理を怠った場合、食品衛生法に違反する可能性があります。
企業はコンプライアンスプログラムを設立し、法令遵守や倫理的な標準を徹底することで、コンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えるよう努力することが必要です。
内部監査やコンプライアンスチームを設けて、問題の早期発見と対応を行う体制を整備することも重要です。
労働者に対しての過度な選別
労働者に対しての過度な選別は、以下のような例が挙げられます。
- 産休・育休明けの従業員の部署を異動させる
- 辞めさせたい従業員に仕事を与えない
- 精神的苦痛を与え、自主退職に追い込む
このような状況は、ハラスメントとして認定されるでしょう。
過度なボディタッチや身体に関する話をすることなどは「セクハラ(セクシャルハラスメント)」
妊娠・育児をしている女性に対し、配慮を怠ることは「マタハラ(マタニティハラスメント)」
ブラック企業が生まれる背景
ブラック企業が生まれる背景には、さまざまな要因が影響しています。
要因として、以下の3点を挙げます。
過度なノルマや目標
令和3年6月1日の時点で、日本の企業数は368万企業、民営事業所数は516万事業所とされています。
同業他社が多く存在するため、競争が激化するのは必然といえるでしょう。
企業は事業存続のため、利益を最大化しようとする経営方針を過度に強調することがあります。
労働者の権利や福祉・健康な労働環境を無視し、過度なノルマや目標を課すことで、長時間労働を強制する環境が生まれます。
不適切な労働環境
不適切な労働環境は、労働者の健康や幸福に悪影響を及ぼします。
- 長時間労働
- 低賃金
- 労働基準法の違反
- 安全性の不足
- ハラスメントやいじめ
- プライバシーの侵害
- キャリアアップの機会の不足
- 不適切な管理体制
上記のような労働環境にいる場合、労働者は転職を考え、その企業からは人材が流出します。
必然的に人材不足の状況に陥るので、労働環境を改善しない限り、悪循環を繰り返していきます。
社会的・文化的要因
企業の組織文化が、従業員の権利や健康を尊重するよりも、過重労働や長時間労働を奨励するような文化は危険です。
- 「昔は会社に寝泊まりすることが当たり前だった」
- 「寝ないで仕事をしていた」
- 「最近の人は根性が足りない」
- 「売上のためにどんなことでもした」
そんなことを言われたことがある、又は耳にしたことがあるという方も多いかと思います。
過労や過重労働、根性論が美徳とされ、長時間労働が当たり前とされることがブラック企業の生まれる背景になることがあります。
ブラック企業の見破り方
大半の方がブラック企業に就職したくないことでしょう。
「次転職するところがブラック企業だったらどうしよう」という不安もありますよね。
ブラック企業を見破るためには、情報収集と注意深い調査が必要です。
就職・転職する前にブラック企業を見破るための注意点を、以下に挙げます。
求人票の表記
求人票は隅々まで確認するに越したことはありません。
ここでは、特に注意したい2点を挙げます。
給与
・最低賃金を下回っていないか
・試用期間や研修期間の給与は変動するか
・固定残業代制度を採用しているか
基本給が極端に少ない場合は、時給換算にして最低賃金を下回っていないかを確認しましょう。
試用期間や研修期間の給与が変動する場合、こちらも最低賃金を下回っていたら違法となるので要チェックです。
固定残業代制度は固定の残業代が含まれている分、基本給が低い場合があります。
固定の残業代分の労働時間を超えた場合は、超過分の残業代が支給されますが、ブラック企業の場合は支払われない場合があるので注意が必要です。(もちろん、支払われない場合は違法です。)
また、「基本給」「月給」「月収」これらは全て意味が違います。
表記の違いや給与に関しての注意点は、以下のリンク内で詳しく解説しています。
労働時間・休日
・残業の有無(残業があった場合、月の平均残業時間は何時間か)
・休日出勤の有無
・年間休日の日数
・有給休暇の取得率
稼ぎたい方、そうでない方も残業や休日出勤の有無を確認しましょう。
休日日数、特に年間休日の確認も必須といえます。
1日8時間・週40時間の勤務の場合、労働基準法による年間休日の下限は105日とされていますが、105日を下回ったからといってそれが違法かというとそうではありません。
労働基準法第35条では、少なくとも週に1回以上、4週間に4回以上の休日が与えられていれば問題がないからです。
ですが、極端に休日の日数が少ない企業には注意したほうが良いでしょう。
プライベートを重視したい方は、年間休日120日以上の企業がおすすめです。
年間休日120日以上の場合、毎週2日間の休みに加えて、祝日休み、GW休暇・夏季休暇・年末年始休暇といった長期休暇を設けている場合がほとんどです。
求人票に記載が無く気になったことがあれば、企業の担当者に質問をしましょう。
また、全ての企業ではありませんが、年間を通して求人を募集している企業は離職率が高い場合もあるので注意が必要です。
企業の口コミ
ネット上で企業に関する評判や口コミを検索し、労働環境や経営実態、従業員の体験や不満についての情報を収集しましょう。
極端に良い口コミが多いものは、企業の担当者などがサクラとして投稿している場合もあるので、注意深い調査が必要です。
転職を考えている企業やその業界に勤めている人が身近にいれば、業界の実態などを聞いてもいいでしょう。
また、厚生労働省が労働基準法を違反した事業所をまとめた「労働基準関係法令違反に係る公表事案」を公開しています。
定期的に厚生労働省のホームページをチェックすることも大事でしょう。
最後に
ブラック企業をなくすためには、企業側が社会的な意識を向上するしか方法がありません。
ブラック企業に入らないためには、自身の権利や価値を守りつつ、情報収集と選択肢の比較を行うことが重要です。
また、雇用契約や条件に関する不安がある場合は、労働法の専門家に相談することも検討しましょう。
万が一、ブラック企業に入社してしまった場合は、自分自身を優先した行動をすることが最も大切です。
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